歯科・クリニックで常勤の事務長を雇用している所もあると思います。しかし、雇用してみたはいいけど「何を頼めばいいかわからない」「思ったより期待外れ」「スタッフとの仲が悪くて困っている」など、悩んでいらっしゃる院長も多いのではないでしょうか?今回は、クリニックの事務長に求められる役割についてお伝えしていきます。
- 歯科・クリニックの経営面を管理するのが事務長の役割。
- 歯科・クリニックの業績を維持・向上させるのが事務長の役割。
- 院長が経営や診療に集中できる時間をつくるのが事務長の役割。
歯科・クリニックが抱える課題
多くの歯科・クリニックは少人数で運営しています。そのため、院長一人が何でもやって管理しなくてはならない状況に陥っています。おそらく院長は以下のようなことで悩んでいるのではないでしょうか。
- 事務作業や雑用雑務を診療の合間や休診日に行わなくてはならない。
- スタッフが採用できない。できたとしてもすぐに辞めてしまう。
- スタッフ間のいざこざや反発するスタッフがいてストレスがたまる。
- 売上が悪くて利益が残らない。どうすればいいのかわからない。
- 経営や運営面を誰にも相談することができなくて、孤独を感じる。
しかし、このような状況は組織として決して良い状況ではありません。歯科・クリニックを開業してから数年はその状態で走り続けることができても、その状態が今後5年、10年続くとしたらどうでしょうか?徐々に疲れが蓄積して、いつか心が折れてしまうかも知れません。この状態を改善するためには、歯科・クリニックを組織化することが必要です。組織力が向上することで、業績が安定するだけでなく、医療の質を上げることにもつながります。
医経分離の必要性とメリット
医経分離とは、医療を提供するチームと経営面で管理するチームに分けることです。医経分離を行うことで、院長はじめ医療従事者達が診療に専念できる環境が整い、診療の質と患者満足度の向上が期待できます。また、歯科・クリニックの経営面においても、専門的な知識を持つメンバーが効果的なマネジメント戦略やマーケティング戦略を実行することで、歯科・クリニックの安定経営が実現しやすくなります。
医経分離のメリット
医経分離を行うことで、診療チームと経営チームの両輪が稼働するようになります。その両輪が上手くかみ合うことで、以下のようなメリットが期待できるようになります。
- 事務作業や雑用雑務から解放され、診療に集中できるようになる。
- スタッフが採用できるようになり、スタッフの成長・定着につながる。
- スタッフに対するスタッフから解放され、ストレスがたまらない。
- 売上改善・利益が残るようになり、クリニックの安定経営を実現できる。
- 院長が抱える悩みやクリニックの課題を、気軽に相談できるようになる。
このように医経分離を行うことで様々なメリットがあります。しかし、多くの歯科・クリニックは少人数で運営しており、リソース不足が慢性化しています。こうした状態では、医経分離を行うことは限りなく困難です。医経分離を行うには、クリニックの経営面を担う事務長の存在が必要不可欠です。事務長は、スタッフの採用・育成、集患・増患対策、収益向上のための戦略実施など、歯科・クリニック経営に必要な多岐に渡る業務を担当します。つまり、院長は診療以外の全てのことを事務長に任せることができるのです。その結果、診療チームと経営チームの両輪が稼働するようになるのです。
歯科・クリニックの事務長が担う役割
事務長が担う役割は、経営チームを稼働させることです。事務長は医経分離を実現するための重要な役割を果たします。歯科・クリニックの経営全般をサポートし、院長が診療に集中できる環境を整えるために必要不可欠な存在です。事務長が担う主な役割は以下の通りです。
経営戦略の策定と実行
事務長は、歯科・クリニックの収益性を高めるための経営戦略を立て、その実行をサポートします。収支のバランスを見ながら、費用対効果の高い、生産性の高いクリニック運営を目指します。スタッフの採用と管理
事務長は、スタッフの採用、教育、評価を通じて、職場環境の向上、マンパワーの向上を図ります。適切な人材配置を行い、クリニック全体のパフォーマンス向上を目指します。集患活動とマーケティング
事務長は、集患戦略を立て、WebサイトのSEO対策や広告運用、MEO対策、SNS運用などを通じて、新患の獲得を促進します。また、患者満足度を高めるためのサービス改善を行います。財務管理とコスト削減
事務長は、歯科・クリニックの財務状況を把握し、無駄なコスト削減や収益向上策を講じます。予算管理や支出の最適化を行い、クリニック経営の健全化をサポートします。歯科・クリニック運営全般のサポート
事務長は事務作業や雑用雑務など、診療以外の業務を管理し、院長の負担を軽減します。事務長の役割は多岐にわたり、院長が診療に集中できるようサポートします。
もちろん、院長の考えや歯科・クリニックの方針次第で事務長の役割は異なってきます。しかし、歯科・クリニックの経営を安定化、収益の向上を実現するためには医経分離の考えのもと事務長を有効に活用することが重要です。
歯科・クリニックの事務長に求められるスキル
このように医経分離を実現する事務長は、多岐にわたる業務を担うため、幅広いスキルセットが求められます。事務長の役割を効果的に果たすためには、以下のようなスキルが重要になってきます。
経営分析力
歯科・クリニックの経営状況を正確に把握し、適切な経営戦略を立てるための分析力が求められます。データをもとにした意思決定が、クリニックの成長を支えます。問題解決力
歯科・クリニックの日々発生する課題に対して、迅速かつ的確に対応するための問題解決力が重要になってきます。論理的思考や柔軟な対応と判断力が求められます。マーケティング知識
集患活動やSEO対策、MEO対策、SNS運用など、歯科・クリニックの認知度を高めるためのマーケティング知識が求められます。最新のトレンドを理解し、適切な施策を実行できるスキルが求められます。コミュニケーション能力
医療従事者であるスタッフとの円滑な意思疎通やチームをまとめるためのコミュニケーション能力が求められます。クリニック運営にとって最も重要なスキルです。財務知識
歯科・クリニックの収支を管理するためには、基本的な財務知識(最低限、簿記3級程度の知識)が必要不可欠です。予算編成や支出管理を行い、経営の健全化を図ります。
これらのスキルを保有した事務長は、歯科・クリニックの経営を支え、院長が診療に集中できる環境をつくり、医経分離を加速させます。優れたスキルを保有している事務長の存在は、クリニックの成長と成功にとって欠かせません。しかし、現実問題これらのスキルを保有した事務長を雇用するにはいくつかの問題があります。
一般企業から雇用した事務長が機能しない理由
歯科・クリニックの事務長として求人サイトに募集をかけた際に、大半は一般企業の中間管理職をしていた人材となります。一見すると経営の効率化や業界に染まっていない新しい視点が有益に思えるかもしれません。しかし、現実に上手く機能しないことが多くあります。
事務長が担当する業務範囲が広すぎる
一般企業では、職種や階層ごとに役割が明確に分かれており、それぞれの分野のスペシャリストは多く存在します。しかし、前述した通り歯科・クリニックの事務長に求められるような幅広い業務をカバーできるジェネラリストは少ないです。歯科・クリニックの事務長は、経営、スタッフ採用、管理、集患、財務など多岐にわたる業務を一人でこなす必要がありますが、これに対応できる人材が少ないため、期待したパフォーマンスを発揮できないことがあります。
院長が求めている役割との認識のズレ
事務長募集を求人サイトに掲載する際に、主にバックオフィス業務(歯科・クリニックの運営管理)を全面に出していると思います。応募してくる人材は、当然ながらバックオフィス業務を期待しています。しかし、実際に雇用した事務長が勤務しだすと、院長が事務長に現場仕事を求めることあります。この役割の認識のズレが問題となり、不満が蓄積され、最終的には離職につながることが少なくありません。医経分離を実現するためには、明確に役割を分担することが重要です。
雇用した事務長のスキル不足
事務長に求められるスキルは多岐にわたるため、その期待に応えられないことが多々あります。特に、医療業界特有の知識やスキルを持たない未経験者の場合、医療業界特有の知識を習得する時点で離職につながることが少なくありません。また、歯科・クリニックは少人数で運営しているところが多く、事務長の育成にかけるリソースが不足しているため、事務長が成長する前に離職してしまうケースもあります。採用時点のスキル不足は、育成ではカバーできません。
医療従事者とのコミュニケーションの難しさ
歯科・クリニックのスタッフは9割以上が女性であり、コミュニケーションが重要になってきます。しかし、一般企業出身の事務長は女性スタッフのマネジメント経験が乏しく、女性スタッフからの反発を受けることがあります。これにより、職場の雰囲気が悪化し、スタッフのモチベーションが低下してしまうリスクがあります。また、女性スタッフから総スカンを受けて事務長がメンタルを病んでしまうケースもあります。
事務長と女性スタッフの男女問題
特に雇用した事務長が若い男性の場合、女性スタッフとの間で男女の関係になることも少なくありません。どの職場でもそうですが、男女の関係をもっていることが周りに知られると、職場環境が不安定になり、歯科・クリニックの運営に悪影響を与える可能性があります。また、男女の関係が解消される際に、女性スタッフが離職してしまうなど、貴重な人材の流出につながりかねません。
その他の問題
これら以外にも、歯科・クリニック特有の規模の小ささや医療業界特有の文化の違い、院長の経営スタイルとの不一致など、一般企業から雇用した事務長がうまく機能しない理由は多岐にわたります。例えば、クリニックでは、柔軟な対応や迅速な意思決定が求められますが、一般企業出身の事務長はそのような環境になれていないことがあります。また、医療現場では、患者対応や医療従事者との連携が必要ですが、これまでの経験がそれに適さない場合もあります。
歯科・クリニックを成長に導く事務長を獲得する方法
歯科・クリニックの成長には、院長や経営をサポートし医経分離を実現する優秀な事務長の存在が必要不可欠です。しかし、マッチした人材を獲得するには戦略的な採用活動が必要です。歯科・クリニックを成長に導く事務長を獲得する方法をいくつかご紹介します。
募集要項は事実と反することは記載しない
事務長を雇用する際に、求人サイトに掲載することが大半です。母集団形成を図るうえで、大手総合転職サイトを利用する場合もあります。その際に、募集要項を作成するのはほとんどが大手総合転職サイトか広告代理店の担当者です。彼らは応募数を増やすことが目的なので、良いことばかりを書いた募集要項を提案してくることが多いです。応募数を増やす・人材を獲得することを優先するあまり、実態と異なる業務内容や待遇を記載すると、採用後に期待と現実のギャップが生じ、離職につながります。結果として、採用コストや育成コストが無駄になります。特に現場業務については、スタッフの欠勤時のヘルプ程度にとどめることをお勧めします。実際に、募集要項に記載していない現場業務をやらせることで離職していった人材を多数知っています。
採用面接でクリニックのビジョンを伝える
採用面接の段階で、院長が事務長に求める具体的な役割や歯科・クリニックの目指すビジョンを正確に伝えてください。院長の想いやクリニックのビジョンを共有することで、求職者に歯科・クリニックで働く意義を感じてもらえます。透明性のあるコミュニケーションが、採用後のミスマッチを防ぐ鍵となります。歯科・クリニック側と求職者の立場はイーブンです。お互いが選ぶ立場であることを理解して、横柄な態度や失礼な発言のないようにしてください。その時点で縁がなかったとしても、口コミに面接時の横柄な態度や失礼な発言を書き込みされると今後の採用活動に問題が生じてしまいます。
柔軟な対応力と医療業界特有の文化への理解を持つ人材を選ぶ
医療業界は一般企業とは大きく異なります。医療現場特有の文化は、一般企業では想像することもできないほど乖離があります。院長が想像している以上に、一般企業で管理職をやってきた人材が受けるカルチャーショックは大きいのです。そのため、柔軟な対応力と医療業界特有の文化への理解を持つ人材を選ぶことが求められます。スタッフの意識に関しても同じことがいえます。多くの一般企業では新卒の段階で社会人としてのマナーや一般常識を教育しています。しかし、歯科・クリニックではそうした教育をしていないところも多くあります。そうした場合は注意が必要です。
女性スタッフのマネジメント経験を重視する
過去の女性スタッフに対するマネジメント経験の成功体験や失敗体験などを詳しくヒアリングし、適性を見抜いてください。適性検査を利用することも有効な手段な一つです。適切なマネジメントスキルを持つ事務長は、スタッフの信頼を得やすく、職場の雰囲気の向上に貢献します。また、前述したように男女問題に発展しないよう 注意が必要です。歯科・クリニックのスタッフの大半は女性であり、女性スタッフのマネジメント経験がある人材を選ぶことが重要です。採用面接では、スキルだけに注目するのではなく、ある程度の基準は設けておいた方がいいでしょう。
事務長にかけるコストを予算に組み込む
経営者の立場からすると、人件費を抑えたいと思う院長も多いのではないでしょうか。しかし、優秀な事務長を獲得するには、相応のコストがかかることを念頭に置き、予算に組み込むことが重要です。優秀な人材は自分の市場価値を理解しており、希望年収に達しない場合は他の職場を選ぶ傾向があります。競争力のある待遇を提示し、優秀な人材を獲得するために必要な投資を行うことをお勧めします。何のために事務長が必要なのか。今一度、考えみてください。歯科・クリニックを成長に導く事務長が欲しいのか?単なる事務担当者が欲しいのか?それとも便利屋が欲しいのか?
まとめ
歯科・クリニックにおける事務長の役割をお伝えしました。事務長の役割は、歯科・クリニックの運営をスムーズに進め、院長の負担を軽減することです。歯科・クリニックを成長に導くための医経分離を実現するためにも、事務長の存在は必要不可欠なのです。事務長は歯科・クリニックの中核として、院長を支え、経営や運営面をを支えます。しかし、優秀な事務長を雇用するのは難易度が高く、採用に苦戦するかも知れません。
そうした際に、有効活用できるのが「事務長代行」や「事務長アウトソーシング」です。しかし、注意しなくてはならないことは、事務長代行や事務長アウトソーシングを事業展開する会社は、必ずしも担当者が事務長経験者ではないということです。診療科目が違う場合は基本的に問題はありません。しかし、医療業界の経験すらない担当者が歯科・クリニックに訪問し、事務長としてサポートしている場合があります。もちろん、契約内容によっては事足りる場合も多々ありますので、慎重に選ばれることをお勧めします。